カンボジア道中記3
最終話(前編)「手紙」
< 2015年9月8日(火)7:00 バンティアイチャックレイ中学校に向け出発>
いよいよ贈呈式の朝がやってきた。
一行は式のための大きな荷物を支度する。
木村
「おはようございます。では、これからクルマに乗ってバンティアイチャックレイ中学校に向かいます」
JHPの迎えの車2台に分乗して出発。
バンティアイチャックレイ中学校は、プノンペンの南東約110kmプレイベン州にある。
片道約2時間半の道のりである。
ミサエ
「見てよこれ、持ってきたよ~」
ミサエが取り出したのは巨大なハンマー。
普通お目にかからない、完全な業務用である。
ほっしー
「デカっ! え、何に使うの?」
ミサエ
「写真のパネルを教室にかけるのにクギを打つから。知り合いに借りてきた。重かった…」
まっすー
「そこまでいくと凶器だね(笑)」
ミサエ
「そうだよ~ (`∇´)ノ オリャー」
そう言って隣のKOSMICにハンマーを振りかざす。
KOSMIC
「………。」
ミサエ
「 (`∇´)ノ オリャー」
KOSMIC
「………。」
真剣に演奏準備しているので完全にスルーされるミサエであった。。。
クルマはプノンペンを離れ、一号線を一路東へ。
ほっしー
「あぁ、この荒れた道。3ヶ月前に来たばかりなのに、何だか、すごく懐かしい感じがするな」
前回の訪問から約3ヶ月、荒れた路面を一行を乗せたクルマが行く。
荒涼とした大地に立ち込める砂けむり、道路脇にいくつも並ぶ露店のパラソル、以前と変わらない風景が懐かしく広がる。
KOSMIC
「木村さんのために一曲演ります」
木村
「いや、、私のためとか、いいですからそういうの(笑)」
かつて音楽の道を志した頃もあったという木村さん。
前回の訪問のときにKOSMICとコアな音楽話に花を咲かせ、まわり驚かせていた。
そんな木村さんのためにKOSMICが歌い始めたのは、
『Ol ’55』お互い好きだと話していたトム・ウェイツの名曲だ。
♪ Well my time went so quickly,
I went lickety-split out to my old ’55
木村
「あぁ、、いいですねぇ」
ガタゴト揺れる車窓から見える、どこまでも広いカンボジアの風景に何ともマッチしていた。
まっすー
「そろそろじゃない?」
ミサエ
「あ”~緊張してきた」
見覚えのある黄色い校舎が見えてきた。
今回は贈呈式なので、生徒たちは出迎えるのではなく、会場のテントに着席して待機しているようだ。
ほっしー
「さぁ、いよいよだ!」
2台に分乗していた一行はそれぞれ荷物を運び出す。
出来上がった校舎を初めて目にするボスはじっと校舎を見つめている。
ミサエ
「わ~、校舎も会場もちゃんと出来上がってる」
ボスはまず始めに校舎の中に入り、出来上がった校舎の確認をする。
ボス
「温度どう?」
まっすー
「はい、やっぱりだいぶ涼しいですね」
今回の校舎建設におけるアイデアのひとつ、遮熱塗料。
屋根全体に塗った塗料で熱の蓄積を軽減する。
真夏は40℃以上にもなる電気のないこの地域で、少しでも快適に勉強してもらおうという試みだ。
想定どおりの効果はあったようだ。
無事に完成した4教室の新校舎とトイレ、水タンク
校舎の確認を済ませ、いよいよ生徒たちの待つ会場の方へ。
普段はただの広場である場所に、飾り付けられた華やかなステージと生徒たちが座るテントが作られていた。
出迎えてくれた女生徒たちが、一人一人に違う色のスカーフを首にかけてくれる。
カンボジアシルクだろうか、フワッとお香の香りがするステキな織物だった。
ボスに続いて、他のメンバーも少し照れた様子でスカーフをかけてもらう。
この贈呈式には、JHPの方々や学校や村の関係者をはじめ、バンティアイチャックレイ中学校があるプレイスダッ郡の郡長、そしてカンボジア政府からスポーツ青年教育省の担当者が参列。スピーチやテープカット、植樹などが行われる。
ステージに上がり、まずはボスたち主賓が僧侶から清めの儀式を受ける。
そこから読経がはじまり、贈呈式の開会である。
やくそくメンバーたちは、素早く自分の任務の準備に取り掛かる。
まだ9時頃だというのに日はすでに高く、炎天下での体力勝負になりそうだ。
まっすー
「カメラがオーバーヒートしないといいけど…」
ビデオ撮影を担当するまっすーが言う。
ほっしー
「こちらもだね。こまめに電源切ってるよ」
まっすー
「ほっしーは熱中症も気をつけて!」
ほっしー
「そ、、そうだね(苦笑)」
(※詳しくはカンボジア道中記2を参照)
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式典は、カンボジア国歌斉唱からはじまり、郡長のスピーチと続いていく。
そして、寄贈者のあいさつとして、ボスが壇上に上がる。
ボス
「バンティアイチャックレイ中学校の皆さま、先生方そして関係者の皆様こんにちは。
本日は多くの方にご列席いただきまして、誠にありがとうございます。
今日この日が迎えることができたことを、心より嬉しく思っております。
私は12年ほど前に、娘と見ていたテレビで学校に行けないカンボジアの子どもたちを観ました。
娘は自分との状況の違いに困惑し「かわいそうだね、、」と言いました。
その時、私はいつかカンボジアに学校を建てようと娘と「やくそく」したのです。
そして10数年の歳月が経ち、この度ご縁があって、ここに新校舎を建設し贈呈式の日を迎えることができました。
(中略)
今回のご縁を大切にして、私たちのできる小さいことをできるだけたくさん、できるだけ長く続けていくとの思いを更に強くし、これからも微力ながらたくさんの「やくそく」を作っていきたいと思います」
ボスは会衆に向けて、一言一言ゆっくりと話した。
それはこの活動を特別に誇るのでもなく、淡々として自分が目立つことを好まない実にボスらしいスピーチだった。
――その頃、舞台裏。
ミサエ
「あぁ〜〜緊張して吐きそう〜!」
KOSMIC
「大丈夫ミサエならできる!」
ほっしー
「そうそう、ミサエさんなら大丈夫。頼んだよ!」
ミサエ
「よ、よし!まかしとけ!」
席に戻るボス、それを追うように司会席にミサエ登場!
いよいよ、サプライズ実行の時である―。
ミサエ
「狩野さん!! ちょっとこの時間をお借りして、狩野さんだけにメッセージを伝えたいと思います」
突然自分に向かって話し始めるミサエに、完全に(??)な表情のボス(笑)
ミサエ
「狩野さんとお嬢さんの「やくそく」が、たくさんの人に笑顔と夢を与えてくれていること、ありがとうございます。
今日は、贈呈式に来られなかったお嬢さんから狩野さんに手紙を預かっています」
ミサエの緊張がこちらにも伝わってくる。
会場の人たちは何が行われるか知っているので、皆ニコニコして見守っている。
ことの次第がわかって、その場に立ち上がるボス。
ミサエ
「代読させていただきます―」
ズッズズズズ~~~~~~~!!!(涙)
まだ読んでもいないのに、号泣するまっすー。
ほっしー
「泣くの早っっ! つられるからやめて、、、」
見れば、たやまんも目を固くつぶり、口を真一文字に結んでいる。
~~
おとうへ
普段手紙を書くことなんてないので、少し緊張しています。
私がまだ幼稚園生だった頃、おとうと一緒にテレビを観ていたとき、カンボジアで学校にも行けず過酷な生活をしている同い年くらいの子たちのことを知り、かわいそうだと思ったこと、そしてその時おとうと約束をしたこと、おとうは忘れていると思っているようですが、かすかに覚えています。
あの時はまだ小さかったので、単純に学校ができたらいいなということしか考えていませんでしたが、それがどれほど大変なことかが分かるようになった今、本当に有言実行してみせたおとうは、とてもすごいと思うし、最高にかっこいいです。
私もおとうのような立派で素敵な大人になれるよう、日々努力します。
「やくそく」を果たしてくれて、ありがとう。
最後に、私と父の「やくそく」のために協力してくださった皆様に、心より感謝申し上げます。
本当にありがとうございました。
また、カンボジアの皆様にとって希望あふれる未来となることを願っています。
~~
立ち尽くすボスの目に一瞬、涙が光ったように見えた。
10数年の「やくそく」の歳月―。
小さかった娘は、親の背中を見て立派に成長していた。
どういう想いで筆を取り、また、どういう想いでこの手紙を受け取ったか。
それはボスと娘さんの二人にしかわからない。
ただ、「ありがとう」のところで少し微笑んで頭を下げたのが印象的だった。
物語はいよいよ完結へ