カンボジア道中記2
最終話「メッセージ」(後編)
<「メッセージ」(前編)の続きより>
続いて壇上に上がったのはKOSMIC。
たやまんのメッセージを神妙な面持ちで聞いていた生徒たちは、いきなりギターを抱えて上がって来たKOSMICにびっくり。
KOSMIC
「I'm old friend MASSU. We went to same school like this in japan. I'm singer song writer ——」
最初に英語でこう語りはじめたKOSMIC。
このプロジェクトに参加することになった不思議な再会が心によぎったのかもしれない。
小学校からずっと一緒だったKOSMICとまっすーとミサエ。
特にKOSMICとまっすーは、遊びも一緒、所属していた野球チームも一緒、音楽の趣味も一緒。中学校では一緒にバンドも組んだ。
だが、だんだんとお互いに付き合う仲間や趣味趣向が微妙に異なりはじめる。多感な時期、よくあることではある。
いつも一緒だった二人は知らず知らずの内に疎遠になる。
そしてKOSMICの突然の転校。
二人の時間はそこでぷっつりと途切れてしまう—。
時を経て、お互い40代へと突入したその年。まっすーはかつての親友を検索する。
あれだけ音楽好きだったあいつが本当にまだ音楽やってたらすごいな。と
その検索結果にKOSMICはいた。
しかもプロのシンガーソングライターとして。
「いや〜見つけたときはビックリしたよ。でもそれ以上にどこかのバンドのギタリストじゃなく、シンガーソングライターとしてやってるのを知って、なんかすごい嬉しくなっちゃった」(まっすー)
でも、突然の別れもあり、またあまりにも時間が経ちすぎて連絡することをためらっていたまっすー。
そこへまっすーと少し前に再会していたミサエがKOSMICに連絡を取ることに。
二人と同じ時間を過ごした幼馴染みのミサエが3人の時間をつなぎ合わせる。
26年ぶりの再開。
どんな思いだったかはその場の3人にしかわからないだろう。
そこから二人が「やくそく」プロジェクトに参加することになった経緯は冒頭で述べたとおりだ。
化学反応とも言うべきか、その再会からすぐにミサエは、KOSMICのかねてからの希望だった故郷、横浜でのライブ実現に動き、KOSMICはそれを「やくそく」プロジェクトのチャリティーライブにしてはどうかと発案する。
そして今、カンボジアの空の下、生徒たちを前にして彼は2つの歌を歌おうとしていた。
1曲は自身の歌「Out Into Space」。希望、未来を純粋に信じようというメッセージソングだ。
そしてもう1曲はジョン・レノンの「イマジン」
バンティアイチャックレイ中学校に来る前日、こんなことを聞いた。
ほっしー
「カンボジアの歌とか、この旅の歌とかを作る予定ですか?」
KOSMIC
「ん〜、何かしらのモチーフにはしたいと思ってますけど、まだ何も決めてないんです。ただ、もっと彼らの文化や音楽を知りたいと思ってます」
その時はまだ生徒たちの前で歌うことも決まっていなかった。
♪ Hear the whistle blow, see the water flow
This whole world is burning in flame
Though the days gone by we still can make it shine
Cause I know there’s no one to blame
汽笛が鳴っている 溢れわたる水を見よ
世界中のいたるところで狼煙が上がっている
時は過ぎ去ったが わたしたちにはまだそれを輝かせることができる
だれのせいでもないんだ
(KOSMIC:「Out Into Space」)
強風が吹くひどいコンディションのなか歌うKOSMIC。
生徒は思い思い、、といえば聞こえが良いが、それぞれバラバラの手拍子。さぞ歌いにくかったことだろう(笑)
それでも会場はKOSMICの歌を中心にひとつになっていた。
生徒も教師もJHPスタッフもそしてメンバーそれぞれも。
♪ You may say I’m a dreamer
But I’m not the only one
I hope someday you’ll join us
And the world will live as one
君は僕のことを夢ばっかり見ているというだろうな
でも僕ひとりじゃないんだ
いつか君も加わってくれるといいな
そうしたら世界は一つになるはずさ
(ジョン・レノン「イマジン」)
別に悲しい歌じゃないのに、泣くシーンでもないのに不思議と涙がこみ上げそうになる。
何の涙かもわからない。我々はまだ何かを成し遂げたわけでも、子どもたちを幸せにしたわけでもないのに。
歌い終えたKOSMICはすっきりした表情で、生徒たちをゆっくりと眺めた。
「別にすばらしい歌を届けようとなんて思ってたわけじゃないんです。でも子どもたちの笑顔を見たら、少しは受け入れてくれたのかな、と思いました。
チャリティーライブで何を伝えていいのか、まだ正直わからないです。この現状をそのまま伝えることしかできない。テーマなんてなくて、それも含めて力強く表現したいと思います」(KOSMIC)
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ライブが終わり、今度は3つのグループに分かれてそれぞれの交流を行う。
・ミサエの女子コーナー
・KOSMICのギターと歌のコーナー
・フッキのサッカーコーナー。
ミサエの担当する女子コーナーは早くも苦戦していた。
生徒たちが恥ずかしがって、全然出てきてくれない…
それでも近くの生徒を捕まえて(笑)輪に引き込む。
ドレスショップのオーナーらしく、自身のネイルを見せ、おしゃれの話題からだんだんと観衆を増やしていく。
「最初は全然来てくれなくてどうしようと思いました。でもここで遠慮したらアタシ何来たのかわからない!と思って強引に行きました(笑)」(ミサエ)
ミサエはそばにいた女子生徒の髪を結いはじめた。
ほとんどの女子生徒がシンプルなゴムで一本に結んでいた。ミサエは女子生徒の髪を素早く編み込んでいく。
うっとりしているように見える女子生徒たち。
ミサエの経営するレンタルドレスショップの名前は「By Magic」。女性はおしゃれをすることで心に魔法がかかるという意味だ。
ミサエはいま、彼女たちに魔法をかけようとしていた。
「ネックレスやピアスを開けている子は結構いて、やっぱりおしゃれは好きなんだなと思いました。髪は普通のゴムで縛ってるだけの子がほとんどだったので、ちょっと結ってあげようかなって」(ミサエ)
そして日本から持参した秘密兵器(笑)ポラロイド式カメラ「チェキ」が登場する。
最初は何が行われているのか全くわからない様子だった生徒たち、出てきた紙に自分たちが写っているのを見て大興奮!
日付を書いてプレゼントすると
我も我もとちょっとした取り合いになる(笑)
「こんな喜んでくれるなら、もっとフィルム持ってくればよかった…(涙)」(ミサエ)
いつの間にかミサエのコーナーには大きな輪ができていた。
「行ってみなければ何もわからないと思ってこの旅に同行しましたけど、悲惨な現状や歴史を目の当たりにして結構落ちた時もありました。自分でできることなんて何もないと思い知らされる旅でもありました。
チャリティーライブという形でこのプロジェクトに参加して、改めてチャリティーの難しさも知りました。自己満足と言われればそうなのかもしれません。でも実際に学校で生徒たちと触れ合って、何もできない私でも「一瞬の笑顔を与えることはできる」そう思いました」(ミサエ)
ミサエの女子コーナーの横でギターを弾いているKOSMICのところにも大きな歓声が湧いていた。
KOSMIC
「誰かギター弾ける子はいないか?」
すると、ある少年がみんなから押し出されるように出てきた。なんと自前のピックを持って。
KOSMICにギターを渡されると、器用にブルースのようなメロディを奏ではじめた。かなり上手だ。するとそれに合わせるようにキレイな歌声の少女が歌いはじめた。
カンボジアにはまだ音楽や美術のような情操教育はない。教えられる人もいない。
でもこうして楽しそうにギターを囲んで歌う姿を見ていると、心の中に受け継がれている芸術の魂があるように感じた。
会場の一番広いところでは、フッキが大勢の男子に囲まれてデモンストレーションを行っていた。
まずは軽くリフティング
フッキ
「あ、あれ?、、ちょ、ちょっと待って、、」
めちゃくちゃ緊張しているフッキ(笑)
たやまん
「プクプク〜〜!!」
フッキ
「はい!さーせん!(汗)」
現役フットボーラーの意地!最後はなんとか大技でしめる。大きな拍手。
その後はボールを取り合うミニゲーム。
夢中になる男子生徒たち、これが結構上手い。見ている生徒たちは、わいわいがやがや囃し立てる。
途中女子生徒も参戦して大いに盛り上がる。
「すいません、めっちゃ緊張しました。でもみんな結構上手かったですよ。いつかボールとか送ってあげたいです。ずっと事務局メンバーとしてやってきましたけど、来る前は皆さんのように何をしようとか何を見ようとか全然なくて、ほんとフラットな気持ちで来ました。でもこうやって自分の好きなサッカーで交流することができて楽しかったですね」(フッキ)
3つのコーナーが行われている間に、ほっしーは生徒と先生への取材を行う。
これまた日本語→英語→クメール語へと訳されていくのでなかなか大変であった。
それでも生徒や先生は様々な質問に一生懸命答えてくれた。
(先生、生徒たちの声はまた別の機会に紹介します)
少し内容紹介すると、先生も生徒も日本がどこにあってどんな国かということはほとんど知らなかった。
ただ、カンボジアを走るクルマやバイクはほとんど日本製であることと、橋や学校建設などいろいろ親切にしてくれる国ということで好印象を持っているようだ。
皆一度日本へ行ってみたいと話してくれた。
「今回のカンボジア訪問は自分にとっても非常に有意義なものになりましたね。今までは現地から届く情報をもとにものを作ってきましたが、実際に現地に行って生徒たちの顔を見て、同じ空気を吸って初めて感じるものがあったし、伝えなければならないことがより明確になりました」(ほっしー)
最後は全員で記念撮影。
この頃には生徒たちもだいぶ打ち解けてきていて、表情もすごくリラックスしていた。ふざけ合ったりはしゃいだりして楽しそうにしている。
カメラをセットすると、生徒たちは両手を挙げ、大きな声をあげてパチリ。
青空のバンティアイチャックレイ中学校に大きな笑い声がこだました。
限られた時間であったが、本当に楽しい時間を過ごすことができた。
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バンティアイチャックレイ中学校を出発した我々は、最後にもうひとつするべきことが残されてた。
2校目の候補地の視察である。
「やくそく」プロジェクトは、もう2校目の支援に向けて動き出している。
候補地への視察は困難を極めた。
バンティアイチャックレイ中学校のあるプレイベン州を北上すること2時間。
文字通りバケツをひっくり返したような大雨の降るなか、ジャングルのような道を進む。
そこは外界から閉ざされたような山奥の集落であった。
そこらじゅうゴミと家畜の糞尿にまみれ、子どもたちの中には裸の子もいる。雨季には半分水に沈む。
いままでのカンボジアの貧困のイメージを簡単に覆すほど、その地域の生活、衛生レベルの劣悪さに驚かされる。
ほっしー
「まだこんな場所があるのか…」
旅の疲れもピークに達し、目の前にある現実に途方にくれるメンバー。
JHPの木村さんは冷静に現地の状況を説明し、大人の男たちはニコニコとし、女性や子どもたちは冷めた目でこちらを見ている。そのコントラストがこの地域の複雑な事情を映しだしているように見えた。
2校目の候補地はここのように実現に向けてのハードルが高いところが多くなってくるだろう。それでも「やくそく」プロジェクトの発起人 狩野富は、教育をまったく受けられない地域にこそ学校をという想いを強く持っている。
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視察を終え、プノンペンに戻るクルマのなか、
キレイな夕日が我々を照らした。
思えば、毎日このカンボジアのキレイな夕日を眺めて1日を締めくくっていた。
その旅ももう終わろうとしている。
フッキ
「キレイな夕日だなぁ…」
これまでの出来事を今それぞれの胸のなかで思い返していた。
達成感というより、安堵感、そして心地良い充足感が我々を包んでいた。
もう見慣れたこの荒れた道、赤い土煙。この地でたくましく生きるカンボジアの人々の顔。
様々な思い出を持って、明日帰路に着く。
途中、木村さんがある場所でクルマを停めた。
木村
「ここでちょっと休憩しましょう」
飲食店などもあるちょっとしたサービスエリアのような場所だった。
屋台も多数出ている。
まっすー
「あ〜疲れた。なんかいっぱい売ってるね…」
!?
屋台で売られていたのは、虫、むし、ムシ…。
食用のタガメ、イナゴ、芋虫など、なんとクモまである。
まっすー
「フクー!出番だぞ〜 」
フッキ
「いっや、ほんと無理っす」
たやまん
「プクプク〜〜!!」
それを見ながらいたずらに笑う木村さん、確信犯である(笑)
もはや芸人の罰ゲーム状態。
そんな我々に近づいてきた少女たち。
おもむろに手に持っているものをたやまんに差し出す。。
少女たち
「クモ〜〜〜〜!!(゚∀゚)」
「うぅぅわぁぁぁ〜〜〜〜〜!!!!!」
たやまん、この旅3度目の雄叫びである(笑)
持っていたのは真っ黒で毛がフサフサな大きなクモ。
毒を抜いたタランチュラとのことだが(本当にそんなのいるのだろうか…?)
たやまんのリアションに喜んでさらに追いかける少女たち。
少女たち
「クモ〜〜〜〜!!(゚∀゚)」
たやまん
「こ、、こらぁ〜〜!あっちいけ!!」
逃げながらなのでまったく迫力なし……
市場の鶏肉、アンコールワットの急階段、そしてクモ。散々なたやまんであった。
たやまん
「お、、おまえら次はもうグーだぞ! グー(#`Д´)」
一方、屋台のほうでは、、
まっすー
「フク〜どれにすんだ?やっぱタガメか?(゚∀゚)」
フッキ
「や〜もうほんとキツいっす…」
KOSMIC
「オレ食べようかな…」
ほっしー
「え!?ホントに?」
男KOSMIC、まさかの立候補。
KOSMIC
「機会があれば食べようかと思ってたんだよね。じゃあタガメを」
フッキ
「マジですか……」
皆、息をひそめて見守る(笑)
タガメの食べ方を店のおばちゃんに教わり、一気にバクリ…。
KOSMIC
「ん〜、海老せんべいのような。けっこう旨みがあるよ」
ミサエ
「じゃあアタシも!」
ミサエがそれに続く。
ミサエ
「あ、ほんとだ。そのままは嫌だけど剥いてくれたらいけると思う」
まっすー
「いや〜すげぇ〜〜」
ただただ見守る事務局メンバー(笑)
少女たち
「クモ〜〜〜〜!!(゚∀゚)」
たやまん
「だからしつけぇ〜! プク〜こいつら止めろ〜!
プクプク〜〜!!」
フッキ
「はい! さーせん!!」
大いに笑って、泣いた5日間の旅。
またいつかこの地を踏みしめたいと思う。
たくさんのものを見せてくれたカンボジアに感謝して——。
<カンボジア道中記2〜たやまん・まっすーと仲間たち〜完>
「今日のクメール語講座(3)」
「オークン」=ありがとう
※こんにちはと同様に合掌ポーズで
<あとがき>
カンボジア道中記2 〜たやまん・まっすーと仲間たち〜
最後までお読みくださり、ありがとうございます。
この物語は、2015年5月23日〜27日の5日間の旅をまとめたものです。
面白おかしく書いていますが、創作の必要がなかったほど全部実話です。会話の内容もほぼそのままです。
私たちは今回の旅で、カンボジアに何かを与えるどころか逆に多くのものをもらって帰りました。
ここには書ききれなかった出来事もたくさんありました。
本編でも書きましたが、カンボジアの人たちは単に“かわいそうな人たち”ではありませんでした。
そんな目線で見るのが恥ずかしくなるほど、毎日を陽気にエネルギッシュに生きている人たちでした。
しかし、教育が行き届いていないこと、生きてくための仕事が十分ではないことは事実であり、カンボジアの未来のためにまだまだ手を差し伸べる必要があります。
マーケットトラスト「やくそく」プロジェクトは、2校目の建設へと動き出しました。
また、2015年7月17日(金)には初めて支援者による企画イベントである「チャリティーロックフェス」が横浜で開催されます。
当日は「やくそく」プロジェクトのメンバーも勢ぞろいします。
会場で皆様にお会いできるのを事務局メンバー一同楽しみしています。
最後に現地でお世話になった、株式会社淺沼組の松林さん、「JHP 学校をつくる会」の木村晋也さん、Sakhorn Mènさん、カンボジア政府公認ガイドのTaroさん。
そして旅に同行してくれたYCF Internationalの苅田征峰さん、最高の仲間、KOSMICさん、中村美佐江さん
ありがとうございました。オークン!
2015年7月14日
マーケットトラスト カンボジア学校建設
「やくそく」プロジェクト事務局
星野 大起
<チャリティーロックフェスのご案内>
開催日:2015年7月17日(金)
時 間:OPEN 18:00 / START 18:30〜22:00