カンボジア道中記2
第2話「美しきカンボジア」
<2015年5月24日 シェムリアップ二日目>
シェムリアップ二日目の朝。今日も快晴である。
朝なので風は爽やかだが、すでに湿度は高い。
様々な顔を見せてくれたカンボジア初日。目まぐるしい展開で頭の整理が大変だった。
しかし旅はこれからである。
支度を整え食堂へと降りていく。
朝日が気持ち良く入る食堂で、バイキングスタイルの朝食である。
フッキ
「おはようございまーす」
ほっしー
「皆さんよく眠れました?」
KOSMIC
「はい。はじめは正直落ち着かなかったんですけど、ギター弾いたら少し落ち着きました」
ミサエ
「さっき1曲演ってもらったんだけど、よかったわ〜」
まっすー
「今日はいよいよアンコール・ワットだね。俺たちも初めてだからね」
たやまん
「今日も暑そうだなぁ…」
今日は旅の前半の目的であるアンコール遺跡を巡るツアーに出る。
たやまん、まっすーも初めての観光である。
朝食を終え、迎えの車に乗ってホテルを出発。
今日は政府公認ガイドが1日同行してくれる。
ガイドのタロー(Taro)さんは、日本がとても好きだということで日本語も堪能。
日本人の友人がいて来日したこともあるそうだ。だいたい名前が日本人ぽい。
公認ガイドのTaroさん(以下:タロー)
「今日はよろしくお願いします」
まっすー
「日本語完璧じゃん!(笑)」
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アンコール・トム 〜 タ・プローム遺跡
車に揺られ最初に向かったのはアンコール・トム。
アンコールは「街(都市)」、トムは「大きい」という意味。その名のとおり、広さ約9平方キロメートル、一辺3kmの堀と高さ8mの城壁で囲まれ5つの門(南大門、北大門、西大門、死者の門、勝利の門)を持つ城塞都市遺跡である。中央には四面像で有名なバイヨン寺院がある。
タロー
「ここは南大門です。橋の左側は神々が、右側は阿修羅が並んでいます」
優しそうだが威厳に満ちている神々の顔、反対側には見るも恐ろしい阿修羅たちの顔、その参道の奥に来るものを飲み込むかのようにそびえ立つ南大門。例え仏教的な話を知らなくてもすごい迫力である。
一同「!? うぁぁっ!」
説明を聞いている我々のすぐ横に突然、巨大なゾウが!?
ここではこの象に乗って遺跡を巡ることができるのだ。
ミサエ
「いいなぁ〜ゾウ乗りたい」
まっすー
「いいねぇ! 後で乗ってみようか」
ヒンドゥー教の僧侶だろうか、オレンジ色の袈裟を着た一団が歩いて行く。
皆真剣な表情で建造物に目を凝らしたりガイドに質問したりしている。
たやまん
「プクプク〜!」
フッキ
「はい、何でしょう(すっかり呼び名変わってるし…)」
たやまん
「撮って( ̄▽ ̄)」
おもむろに先ほどの僧侶の一団の中へ入っていくたやまん。。
たやまん
「いいよ( ̄▽ ̄)」
フッキ
「へ!? なに混ざってんの?(しかも誰も気づいてないし…)」
たやまん
「いい絵が撮れたろ (ー。ー)y―」
何用かわからない写真を撮らせ、ご満悦のたやまんであった。
近づくほどその迫力を増す南大門をくぐり、内部へと入っていく。
木立のなかを長い道が続き、改めて全体の広さを感じる。日が高くなってきて、日向は強烈な日差しが照りつけかなりの暑さになってきていた。
フッキ
「星野さん、機材重そうっすね」
ほっしー
「重いね(笑)20kgくらいはあるかな」
撮影機材の重さもさることながら、今日は暑さとの戦いになりそうであった。
少し歩くと遺跡の中心、バイヨン寺院が見えてきた。「美しい塔」というその名のとおり、深林のなかに鎮座するその寺院は思わず声をあげてしまうほど美しく、また荘厳であった。
まっすー
「ゾウで一周してくれるらしいから、乗ってみようか」
早速乗り場へ移動し、二人ずつゾウの背中に着けられた座席に乗る。
たやまん
「ちょ、、まっすー揺らすな。ちょっと重量オーバーじゃない!?」
まっすー
「おぉ〜、怖ぇぇ〜」
人間でいうところの肩甲骨のあたりに座席があるので、結構揺れる。
でもゾウのリズムに体を合わせると安定してくる。何より高い位置からみるバイヨンは素晴らしく絶景なのである。
運転手であるゾウ使いは首のあたりに座り、耳を操作して“運転”している。バイヨン寺院を周回しながら、撮影スポットで止まってくれるサービスも。
バイヨン寺院をゾウに乗って一周。同じ建物なのに面によって全然表情が違うことに驚く。
全員乗り終えて、次は徒歩でバイヨン内部へと入っていく。
まず目に入るのが精緻に彫られている壁一面のレリーフである。その内容は様々で、神々、戦争、出産の場面、人々の生活の様子、なかには闘鶏のシーンなどもあった。どれも躍動感にあふれ、当時の生活が窺い知れるようだった。
中庭に入っていくとかなり崩れている所が多く見られた。このバイヨン寺院をはじめ、アンコール遺跡は崩落が進み「危機にさらされている世界遺産リスト」にも登録されている。現在、長期的な修復計画のもと地道な作業が続けらえている。ただ建物を直すのではなく、精緻なレリーフも直しているので本当に根気のいる大変な作業だと思う。
さらに奥に進み石段を上がっていくと、有名な四面像がある回廊へと出る。
大きさのせいもあるが、その表情がまたすごい迫力。像はみな笑顔なのだが、あらゆるところから見つめられているようで何だか落ち着かない。。それほど威厳を感じる場所だった。
記念撮影などを終え、次なる遺跡「タ・プローム」へ向かう。
タ・プロームは、アンコール・トムとはまた少し雰囲気の異なる遺跡だ。
特徴的なのは何と言っても植物に浸食され、一体化してしまった独特の外観だろう。
タ・プロームは他の遺跡よりも発見が遅く、長きに渡り森の中に埋もれていたため、崩壊の度合いが著しい。
映画の舞台にもなったので見たことのある方も多いと思うが、外壁をガッチリつかんでいるかのごとく生えている大きなガジュマルの木は、自然の力強さと文明の栄枯盛衰を物語っているようで、複雑な心境にさせられる。
根の力でなぎ倒された壁があちらこちらで崩落しており、もはやガジュマル木が建物を支えているような場所も多々あり、修復の方向性は議論を呼んでいるとのこと。
大きなガジュマルの木が自然の力強さを見せつける
ここで、ほっしーに異変が発生。
トイレに入って出てこない。。
ほっしー
「ちょ、、ちょっと気分が…」
まっすー
「大丈夫? 顔真っ赤じゃん、無理しない方が…」
強烈な日射しと湿度、完全に熱中症である。
何とか撮影を続けるが、このあと昼までダウンしてしまう。
「まさか自分が最初にダウンするとは…予想以上の暑さでした。(ほっしー後日談)」
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トンレサップ湖
昼食を挟んで、次なる目的地はトンレサップ湖。
カンボジア最大の湖で、乾期と雨季で面積が6倍も変わる。
水上で生活する人も多く、ドラム缶で浮力を付けた建物に住み、水上コテージやレストランなどを経営している。
船着き場からボートに乗り、湖を一周する。
雨季に入ったばかりなので水は少ない。
船着き場では、魚釣りをして遊ぶ子どもの姿があった。
水面を見るとゴミだらけ、水が流れないので臭いもひどい。
たやまん
「なんか釣れる?」
釣り上げた魚を笑顔で見せてくれる。
たやまん
「しかし、水が汚いなぁ…」
ミサエ
「に、臭いが…」
岸まで出て、小さなボートに全員で乗り込む。
タロー
「水が入ってくるので、荷物気をつけてください」
大きめのモーター音とともに出発。
かなり水面ギリギリなので、水しぶきがすごい。先ほどの汚れた水面を見ているので水しぶきに皆ビビる。。
それでも広い湖を颯爽と走るボートはやはり気持ち良い。
魚を捕る人、湖の水で洗濯をする母、楽しそうに水遊びをしている子どもたちを眺めていると、どのような場所にも人々の生活の営みってあるんだなと改めて考えさせられるのであった。
フッキ
「いやぁ〜気持ちいいッス!ちょっと前行ってきます」
船の舳先へと出ていくフッキ。
ミサエ
「わたしも〜」
たやまん
「プク〜、腹筋!」
フッキ
「はーい! (゚∀゚) フンフンフン!」
ほっしー
「落ちるぞ〜!」
湖の中央に差し掛かると見渡す限りの水面。改めて湖の大きさを感じる。
多くの水上レストランなどが建って(浮いて?)いる。
そのうちの1軒に入り、しばし休憩。ふわふわしているのかと思えば、意外としっかりしている。
3階建てで、最上階からの眺めはなかなか素晴らしい。
意外としっかりしている水上ハウス。ここで寝起きし、水上で生活をしている。
1時間ほど湖を周り、陸に上がる。
上がると待っているのは土産物屋の売り子たち。
「コレ買う 5ドル〜」
少女が見せたのは、いつ撮られたのかそれぞれの乗船前の顔写真をプリントした皿。
これには一同ビックリ。
まっすー
「え〜!いつ撮った?(笑)しょうがない買うか」
KOSMIC
「俺はいらないわ」
ほっしー
「すごい商魂だね。欲しい欲しい!俺のは?」
……。
………。
え、ない? ( ゚д゚)ヘ?
ほっしー
「あ、あの〜買う気満々なんですけど、俺の皿はどこかな〜」
売り子(無視)
フッキ
「え、星野さんのだけないの?(゚∀゚)プッ」
ほっしー
「ちょ、、ちゃんと探して…」
売り子
「シッシッ!」(知らんとばかりに手を振る)
カメラ機材をどっさり担いで同業と思われたのか?
一番買う気満々のほっしーだけ撮影されず…。
売り子
「コレ買う〜5ドル」
KOSMIC
「だから俺はいらない」
ほっしー
「(´・ω・)ショボーン」
需要と供給はマッチしないものである…。
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アンコール・ワット
気を取り直して(?)本日のメインの目的地、アンコール・ワットへ。
時間は17時をまわり、まだ日は高いが、夕前の黄色みがかった日射しに彩られアンコール・ワットはとても雄大でため息が出るほどだ。
まっすー
「ついに来たね、アンコール・ワット!」
ミサエ
「来たね〜」
堀を渡る長い石畳の参道を歩く、眼前には本やTVで何度も見た景色がその何十倍もの迫力で広がっている。進んで行くごとに不思議とわくわくするというか、心おどる気持ちになってくる。
皆の顔にも自然と笑顔がこぼれる。
門をくぐって中に入るとさらに道は続く。堀があり、堅牢な城壁に囲まれさながら要塞である。
実際、首都を追われた末期のポル・ポト派はこのアンコール・ワットを拠点とし、新政府軍と戦ったのである。
今はそんな時代を感じさせないほど、とても静かで穏やかな場所である。
中庭には、蓮の花が咲く聖池と呼ばれる池があり、その水面に映る中央祠堂はまさに神秘的という言葉が相応しい。この場所だけ違う時間が流れているかのような美しい静寂を湛えている。
タロー
「この先は第三回廊です。ずっと修復工事をしていましたが、また入れるようになりました。
かなり高いですから登らない人も結構いますので、行かない人は私と下で待っていましょう」
たやまん
「……。俺行かない」
まっすー
「え〜!ここは行くでしょう」
たやまん
「……。」
入口となっている階段を見上げる、
一同「こ、怖っっ!!」
13メートルある石段は、その角度たるや下から見上げると垂直に上がっていくような錯覚を覚えるほどだ。
KOSMICを先頭に上がっていく。
当然下なんか見られない、いや、上だって見られない。。
嫌な汗をかきながら、全員無事に第三回廊へ上がる。
ほっしー
「いや〜これは怖いわ…」
まっすー
「下見るとすごいよ」
たやまん
「あ”〜登っちゃった! なんで登ったんだろう!
もう帰りたい、いや、降りたくないからここに泊まる!(`Д´)」
ミサエ
「え? 田山さん、まさか高所恐怖症?」
まっすー
「とってもね(笑)」
うなだれるたやまん。本当に何で登ったんだろう(笑)
2010年まで入れなかったという第三回廊。
さすがにアンコール・ワットの最上部だけあり、眼下に広がる景色は絶景そのもの。これだけでもあの怖い石段を登る価値はある。
KOSMIC
「すごい景色だね」
まっすー
「すごいよね、やっと来れたよ…」
まっすーは今回の旅をほぼ一人でコーディネートし、事務局メンバーを連れ、また同級生を連れ、ここまで皆を引率してきた。
「皆が楽しいのが一番」と彼は言う。
昨年のプロジェクトスタートから早10ヶ月。たやまんと二人でプロジェクトを牽引し、最も多くカンボジアを訪れているまっすーにとって、このアンコール・ワット最上階から見る景色は格別なものだったに違いない。
夕日に照らされるその顔は、少し安堵しているような満足しているような笑顔だった。
フッキ
「田山さん?大丈夫っすか?」
たやまん
「降りたくない…」
この旅最大の試練が、たやまんを襲おうとしていた—。
まっすー
「そろそろ降りよう」
たやまん
「まっすー、一緒に降りて」
まっすー
「わかった大丈夫! オレ先に降りるから落ちてもキャッチする」
「田山さんって、普段は仕事バリバリのクールでとってもかっこいい人じゃないですか。意外な一面が見れて良かったです(笑)こういうのも旅ならではですね(ミサエ後日談)」
たやまん
「ま、、待て待て、バカ〜、早いよ!コラまっすー!」
まっすー
「え?何で怒られてんの?(助けてるのに…)」
あまりの大声に観光客の皆さん大爆笑(笑)
たやまん、昨日の市場に続く災難である。
何とか全員無事に降りる。
ほっしー
「これ落ちちゃう人とかいないんですか?」
タロー
「年間何人かはいますね…」
ほっしー
「亡くなった方は…?」
タロー
「別の石段ですが、、いますね」
たやまん
「ほらみろ〜〜〜!!」
たやまんの名誉のために言っておきます(笑)
本当に怖かったです、、
回廊内部の撮影スポットでしばし休憩タイム。
ガイドのタローさんとカンボジアの現在について色々聞いた。
タロー
「日本をはじめ、海外からの支援でインフラも学校増えてきてます。でも一番の問題は仕事がないことなんです。働きたくても本当に仕事がない」
失業率で言えば、周辺国に比べてカンボジアが飛び抜けているというわけではない。
街や観光地に行けば、誰しも商魂たくましく仕事をしていた。ただ、その仕事だけで生活ができるのかというと別問題である。学校の教員は教員の仕事だけでは生活ができないと言っていた。
働きたくても仕事がない、働くことができたとしてもそれだけでは生活できない。
教育、インフラとともに大きな問題が横たわっていた。
タロー
「インターネットを通じて知り合った日本人の友人が旅費を工面してくれて、一度日本に行ったことがあります。とても良いところだった。また行きたいですね。その友人も友達を連れて何度かカンボジアに来てますよ」
短い時間ではあったが、他にも様々な話をしてくれた。
現在30才の彼。親の世代より上になると身内や知り合いでも内戦の犠牲になった人が多くいるそうだ。
でもタローさん本人はいたって明るく、日本語も堪能なことから日本人の若者と何ら変わらない溌剌とした青年だった。
最後に、日の入りの時間に合わせ、お堀のところに腰かけ夕日を待つ。
皆、黙って夕日を眺めている。
思えば不思議なもので、日本では立場も仕事も全然違う6人が、ひとつの志のもとにこうしてカンボジアまでやってきた。
明日からはいよいよ首都プノンペンへ移動する。
学校の生徒たちと会えるのももうすぐだ。
今日は美しいカンボジアを見た。
このすばらしい文化・芸術の魂を受け継ぐカンボジアの人たちに再び美しい国を作ってほしいと願う。
しばらくして現れたまばゆい夕日はとても美しく、アンコール・ワットをオレンジ色に染め上げた。
<第2話 了>
「今日のクメール語講座(2)」
「チュガン ナッ(ハ)!」=とてもおいしいです!
※とってもおいしいかった時に使ってください
<次回予告>
美しい街シェムリアップに別れを告げ、舞台は首都プノンペンへ。
いよいよ旅の最終目的地であるバンティアイチャックレイ中学校へと向かう一行。
訪れた学校では、急きょそれぞれのコーナーを任されることに!?
5日間の旅でそれぞれが持ち帰った想いとは…。
カンボジア道中記2 最終話お楽しみに